アカハラの野鳥日誌

ただの日記

伊豆沼・蕪栗沼紀行① ~珍鳥の宝庫、蕪栗沼編~

 鳥を見ることのできるフィールドなら、どこにでもある。変な話だが、ただ鳥を見る体験をすれば良いというだけならば自宅のベランダや庭でスズメやハトを見るのでも十分に事足りるだろう。しかし一方で、珍しい天然記念物に指定されるような鳥が毎年大群でやって来て越冬する野鳥観察のメッカと呼ばれるような場所もこの世の中には存在する。

 宮城県の伊豆沼と蕪栗沼、それから化女沼は国内有数のメッカの一つと言えるだろう。マガンやヒシクイシジュウカラガンなどいわゆるカモの仲間の鳥の中でもガン類と呼ばれる鳥たちの越冬場所として、10月から2月頃の間は大変な賑わいとなる。これらのガン類は伊豆沼や秋田県八郎潟など狭いエリアに集中して越冬するため、深刻な環境改変が生じた際に一気に絶滅の危機に追い込まれてしまうことが懸念されている。近年の東京近郊ではまず見られない鳥といっても過言ではないかもしれない。

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マガン、伊豆沼周辺では10万羽近くが越冬することも。

 今回の記事は、私が12月に友人とこの伊豆沼、蕪栗沼、化女沼に訪れて探鳥をした時の記録である。

 

蕪栗沼

 東北新幹線くりこま高原駅は、本当に新幹線の駅なのかと思ってしまうくらいに何もない場所だ。駅前には郊外型のイオンと今回私たちが泊まる予定のホテルが建っているだけで、それ以外には「無」という表現が最も相応しいような場所である。レンタカーを借りて早速最初の探鳥地の蕪栗沼へ向かいたいところだが、カーナビに「蕪栗沼」と入れても出てこない。仕方がないのでスマホのマップとグーグル先生の助けを借りてどうにかこうにか到着。

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清々しいほど人も物もないフィールドだった。

 沼の周りは広大なヨシ原になっている。渡良瀬遊水地などを彷彿とさせるような景色だが、あそこよりも圧倒的に人の数は少ないし、周りにも何もない(笑)。ヨシ原の周りをしばらく歩いていると、待ってましたと言わんばかりの鳥ラッシュ。

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オナガ。私の通う学校でもよく見るが、地元では全く見ない。

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セグロセキレイ。東京ではあまり見たことがない。

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冬鳥のジョウビタキはここでも越冬していた。

 蕪栗沼はヒシクイ(オオヒシクイ)とシジュウカラガンが比較的見やすい場所として聞いていたが、圧倒的に数の多いマガンの中からそう簡単に彼らを見つけることができるものなのだろうか? 1万羽単位の数のいるマガンの中から変わり種を見つけるというこのミッションは「ウォーリーを探せ」より難しいのでは?

 

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いや確かにガン類はこんな感じでそこら中にいるわ飛ぶわで簡単に見つけられるんだけど、この大量のマガンの中から異種を見つけるって不可能に限りなく近いのでは……?

 なんとなく、マガンの群れが来たら写真を撮って異種がいないかどうか確認して、というのを何度も繰り返しているうちに、お目当ての鳥ではなかったもののとても嬉しい出会いもあった。

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カワアイサ夫婦、左がオス、右がメス。

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冬のヨシ原の猛禽、チュウヒ

 これらの鳥も限られた生息域でしか姿を見ることができない。こういうの出たらまあテンションは上がるよね。何度も通り過ぎるマガンの写真も綺麗に撮ることができた。

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30秒に1回くらいマガンが頭上を通り過ぎる夢のような場所。

 マガンの写真を見返していると……。なんと、シジュウカラガンが群れの中に紛れ込んでいるではないか!?

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 上の2枚の写真を見て、顔つきの違う個体が紛れ込んでいるのがおわかりだろうか。最初の写真は右側1番上の方を飛んでいる個体、2枚目は中央下の方と左側上の方を飛んでいる個体計4羽。

 マガンの群れを片っ端から写真に収めた甲斐があったというものである。非常に嬉しい。ちなみにシジュウカラガンの名前の由来はその名の通り、小鳥のシジュウカラに顔つきが似ているから。

 写真を見て興奮していると、何とシジュウカラガンだけの群れがこちらに向かって飛んで来たではないか。

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暗かったり、角度が微妙だったりっていうのが悔しいが、これは嬉しかった。

 かつて絶滅も危惧されていた、何なら絶滅したとも思われていた時期のあるこの鳥が当たり前のように蕪栗沼の空を行く光景には思わず感動を覚えてしまった。また来年、写真を撮りにリベンジに行きたいと強く思った瞬間だった。

 

 さて、あとはここではヒシクイを見られればもう私は何も言うことがない。沼のすぐ隣を歩いていける道を進む。

 しばらく進むと水辺が見渡せる場所に出た。すると、あまりにもあっけないがそこにはヒシクイの姿がたくさんあった。日中、マガンの多くは宮城県内各地の田圃に採餌に出かけるが、ヒシクイに関しては水辺で過ごす個体が多いのかもしれない。

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ヒシクイです。

 この写真を見てマガンとどこが違うんじゃと思った人もいるかもしれない。

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マガンです。

 実は簡単に見分けられる場所がある。口元にご注目。マガンはくちばしが基本的に黄色くてその基部が白い羽毛に覆われているのに対し、ヒシクイのくちばしは黒く先端部分だけが黄色くなっている。簡単でしょ? とはいえ、水辺でじっと休んでいるからすぐにマガンかヒシクイかの判断がこの時はついたが、空を飛んで移動している時に双眼鏡や肉眼で識別しようにも中々難しいというのは間違いない。

 蕪栗沼では見たかった珍鳥を写真に収めることができた。しかし、宮城のガン類フィールドで見られるのはまだまだこれだけではない。②に続く。